第15章 storm
誰も居なくなった墓地で
タケルは石に刻まれた名前を見つめていた
病院へと向かう救急車の中
血まみれで横たわる姿を見た時も
薄暗い遺体安置室で
冷たくなった身体に触れた時も
タケルは
ただ
悪い夢を見ているだけのような気がしていた
カヲルの死が
あまりにも突然過ぎて
葬儀を終え
こうして墓の前にいる今でさえ
まるで現実味を感じることができなかった
ふいに
生暖かい風が吹いて
供えられていた花の香りが辺りを包んだ
顔を上げると
さっきまで晴れていた空が灰色の雲で覆われていた
「……」
タケルは手にした松葉杖を両脇に抱えなおすと
青々とした芝生の上をゆっくりと横切り
その場を後にした