第2章 play 1 ※
その時
チサトは初めて
男性の住むマンションの薄暗い廊下にバスローブ姿でいる自分のことを自覚した
背筋に悪寒が走る
『……私……やっぱり今日は帰ります』
震える指を握りしめ
必死に平静を装いながら言う
「……」
『…お願いします……帰らせてください…』
「……分かりました……では…お送りしま…」
『結構です!……マネージャーに…来てもらいますので…』
チサトはバッグからスマホを取り出すと
マネージャーに電話した
「…もしもし…?」
『…私です……あのっ…帰りたいので…今から迎えに来てください』
「…は?何言ってるのチサト?…ふざけてるなら切るわよ?」
『ふざけてなんかいません!帰りたいんです!すぐに来てください!』
必死に訴えるチサトに
マネージャーは大きくため息をついた
「…………ハァ………全く……上手くやりなさいって言ったでしょう⁉︎……そんな勝手な事して…彼が機嫌を損ねたらどうするの?……三神さんからしたら…アナタをこの役から降ろすのなんて簡単な事なのよ?」
『……ぇ…』
「……社長だってあんなに喜んでたのに……初日の撮影終えた所で突然ヒロイン役が変更になったら…どんなにガッカリするか考えてごらんなさい」
『…今さら…相手役の変更なんで出来るはずありません!……それに…監督は私の演技を褒めてくださってました……だから大丈…』
「それは!アナタのことを"三神タケルのお気に入り"だって監督が思ってるからでしょう?……まさか…本気で褒められてるとでも思ってたの?」
『……』
「彼の相手役になりたい子なんてごまんといるのよ?…その中に…アナタの何倍も演技の上手い子がどれだけいると思う⁇…あの程度の演技力で自惚れないで頂戴」
『………………そうですね……………じゃあ………私はこの役を降りて…もっと演技の上手な方に譲ります…』
「……この仕事を……断る…って事?」
『……はい』