オレはファンとレーサーでなく彼女とカレになりたい[東堂夢]
第2章 キミのすべてが欲しいんだ
え……私の名前……ってこの声は……とう……どうくん?
びっくりして振り向くと、そこにはどんなに激しいレースで疲れても笑顔を絶やさない東堂くんが、肩で息をしながら切羽詰まった表情で立っていた。
「私の名前……知ってたの?」
東堂くんは息を整えながら言った。
「名前だけじゃない。
キミが料理苦手なのも知ってる。
家庭科の調理実習も見てたし、女子との料理話についていけてないのも見てたからな」
信じられない。
私の存在や名前を知ってたばかりか、そんな細かいことまで知っててくれたなんて……
「東堂くんて……本当に……本当にファンを大切にするんだね。
私、東堂くんのファンでいられてよかった」
「違う。
そんなの、いつもはいちいち覚えてない。
オレはキミにファンでいて欲しいわけじゃない。
恋人になって欲しいんだ」
私はクッキーを断られた時以上の衝撃を受けていた。
「うそ……」
「嘘ではないよ。
が初めて話しかけてきてくれたら、絶対オレから告白しようと決めていた。
その第一声が『ファンです』だったのは予想外だったけどな……
オレはファンとレーサーとしての関係でなく、彼女とカレの関係になりたい。
例えキミがそう願ってなくとも、必ずいつかキミの心まで辿り着いて気持ちを変えてみせるよ。
今日はそれだけ言いに来た。
そのクッキーはキミの気持ちがオレと一緒になった時、受け取りたい。
それが何年先でも……」
「だったら!今、受け取って!」
私は握り締めたままの大きなハートのクッキーを差し出した。
「いいのか?
コレを食べたら、オレはもうキミを一生離さない。
オレだけのものにして、キミを永遠に連れ去って、閉じ込めてしまかも知れねーぞ?」
「うん……そうして欲しいの。
皆のアイドルの東堂くんの笑った顔だけじゃなくて、疲れた顔も、落ち込んだ顔も、全部見たい。
それって、ファンとして、輝いてる東堂くんだけをいつまでも見てたいって気持ちとは違うと思うから」
「それはオレと同じ気持ちだ。
オレもこの成功したクッキーはもちろんだが、それだけじゃなく、今ねこにあげてたいびつなものも、失敗したのも、生焼けのも、捨ててしまったのも、全部欲しい。
キミの全てが欲しいんだ」