オレはファンとレーサーでなく彼女とカレになりたい[東堂夢]
第1章 悪いが受け取る気にはならないな
東堂くん……今日のレースも最高にかっこよかった!
朝早くから、開会式も観るの我慢して陣取ったゴール前の特等席。
そこで、ゴールする瞬間を見たの。
昨日は頑張って、差し入れ用に中心に飴が溶けた、ステンドグラスクッキー作ったから、手は火傷でぼろぼろ、一睡もできなかったけど、東堂くんを見てたら、痛みや疲れなんて消え去っていた。
ゴールした後の東堂くんの周りには、たくさんの女のコたちが押し寄せていた。
「これ、はちみつレモン!
疲れとれるよー」
「優勝おめでとうございますっ」
「マドレーヌ焼いたの。
よかったら食べて?」
そんなにもらったら、東堂くん、太っちゃうよ、って思ったけど、カレは絶対断らない。
どのコに対しても、優しい、さわやかな笑みを浮かべて、受け取ってる。
私も勇気を出して話しかければ、受け取ってもらえることは、もらえるんだと思う。
そう、弱気になっちゃだめ!
今日こそは東堂くんに話しかけて、存在を知ってもらうって決めたんだから!
「と……うどうくんっ、あの、ずっとファンでした。
クッキー焼いたんです。
受け取ってもらえませんか?」
自信たっぷりに笑っていた東堂くんは、私を見ると、初めてちょっと眉を潜めた。
「すまんが、受けとる気にはならないな」
私は固まってしまった。
周りの女のコたちもびっくりしてる。
……どうして?
彼女にしてとか……とんでもないことを口走ったわけじゃない。
ただ大勢のファンの一人としてでも、応援の気持ち、受け取って欲しかっただけなのに……
それさえも叶わないっていうの?
私はどうやって帰ったか、覚えていないけど、気が付いたら学校の裏庭で飼ってるねこにクッキーを与えてた。
私は東堂くんや女のコたちの前でこそ泣かなかったものの、ねこの前ではぐしゃぐしゃに泣いてしまっていた。
当たり前じゃない、自分に言い聞かせる。
ふつう、カオも知らない、初めて話しかけてきた女のコの作った得体の知れない、いびつなクッキーなんて、受け取りたくない。
他の女のコたちみたいな積極性もなければ、大声で応援したこともない、ただ陰から、ひっそり見守っているだけの女のコからの差し入れなんか……
そう納得して、一番大きいハート型にくり抜かれたステンドグラスクッキーを割ってしまおうとした瞬間。
「!」