第8章 秘匿死刑
「綾瀬」
伏黒くんが私のことを呼んだ。
何を言いたいかは聞く前から分かってた。
「五条先生と何かあった?」
「……別に」
「ないわけないだろ。……あの人が綾瀬を置いていくとか、ありえない」
たぶん伏黒くんから見ても、私と五条先生はいつも一緒にいるイメージなんだと思う。
私も、そう。
だから置いていかれたことに驚いたし……結構、ショックを受けてる。
「……さっき、五条先生が言ってたでしょ。両面宿儺が虎杖くんの身体の一部に現れたって」
「ああ。……っ、まさか何かされたのか!?」
「違う違う」
伏黒くんを無駄に慌てさせてしまって申し訳なくなる。
私は手をひらひらと横に振って、事実を述べた。
「両面宿儺に話しかけられて、のんきにお喋りしちゃって」
「それで?」
「それだけだよ」
私がそう答えると、伏黒くんは「いやいやいや」と彼にしては珍しく大きな声で否定してきた。
「五条先生がそんなことくらいであんな態度とるわけないだろ」
「だって両面宿儺だよ? ヤバい呪いだよ? ただでさえ呪われて迷惑かけまくってるくせに、呪いとのんきにおしゃべりなんて怒るよ、普通」
「いいや。あの人、性格は最悪だけど。そんな些細なことでキレるほど感情豊かなタイプでもないから」
褒めてるのか、貶してるのか分からないけど。
伏黒くんは私の考えを否定した。
「たぶん五条先生なら『呪われて泣いてたくせに呪いと喋ってるよ、うける』とか言いそう」
「たしかに」
長年一緒にいるだけあって、伏黒くんの発言はまさに五条先生から出た言葉なんじゃないかって思うくらいリアリティがあった。
「だから、たぶん怒ってる理由はそんなんじゃない。他になんかないの?」