第8章 秘匿死刑
「てか何、呪いに自分のことペラペラ話してんの? 無防備すぎでしょ」
五条先生は私の顎を掴んで、そのまま自分の顔に近づけた。
だから、近いんだって!
「いい加減この距離感慣れるだろ」
「経験豊富ではないので!」
「よく言うよ」
五条先生は呆れるように言って、虎杖くんが座っているのと同じボロ椅子に前後逆で腰掛ける。
背もたれに肘を置いて、虎杖くんの顔に現れた口に向かって言葉を投げた。
「あのさぁ、皆実にちょっかい出さないでくれる? 皆実をイジるのは僕の特権なんだからさぁ」
《ほう、貴様はそれほどこの娘に入れ込んでいるというわけか》
(ヤバイ、どっちも何言ってるのか分かんない……)
2人とも日本語喋ってるのにどうして?
五条先生のいう特権なんて初耳だし、存在しないし。
それを聞いて、入れ込んでるっていう解釈はなに?
国語って難しい。
《決めたぞ。その娘は俺が貰う》
「あげないよ。皆実は僕が守ってあげるって約束だから」
《守る、か。ということは強い男なら誰でもよいのだろう?》
いきなり話を振られ、咄嗟のことで反応できなかった。
そんな私を口が笑った。
《待っていろ。……今はまだ、この男を相手するには俺の力が足りん。今回は黙っておとなしくしてやるが、いずれ俺のものだ》
それだけ告げると、口が閉じてただの溝に変わる。
重たい沈黙。
(これは、なんかまずい気が……)
「へぇ、強ければ僕じゃなくてもいいんだ」
「否定するタイミングを逸しただけです」
「どうだか」
五条先生は鼻で笑う。
いつもなら「やっぱり僕がいいんだね! 皆実ってばツンデレなんだから♡」とか言いそうなのに。
(もしかして……怒ってる?)
呪いと呑気にお喋りしてたから?
疑問に思って口を開いたけど。
五条先生が自分の唇に人差し指を当てた。
静かに、って合図。
同時に、虎杖くんの身体がピクリと動いた。