第8章 秘匿死刑
「綾瀬、皆実です……けど」
律儀に答える必要はなかったのかもしれないけど。
私が名前を教えると、両面宿儺はゲラゲラと笑った。
《良き名だ。しかし名は簡単に教えるべきではない。名は魂を顕す。それを使えば貴様のことなど簡単に呪えるぞ》
「もう呪われてますけど」
教えろって言ったくせに、教えるべきじゃないってなんなんだ。
私が口を睨むと、また口が笑った。
《オマエ、身体に呪いを飼ってるのか。道理でいい香りがするわけだ》
「全然褒められてる気しないんですけど」
《そうか? 女など喰うだけの生き物と思っていたが、オマエは少し俺を愉しませてくれそうな気がする》
「気がするだけですよ」
即答すると、口がゲラゲラと笑った。
よく笑う口だなぁ、五条先生みたい。
《まあよい。……それより、コレを解かないのか? 小僧がかわいそうなんだろう》
「あなたが虎杖くんの中にいるから、解いちゃダメって言われてるんです」
《クククッ、つまり貴様はこの呪符が解けるということか》
ん? 私まずいこと言った?
でも五条先生には「皆実が触ったら呪符がただの紙切れになるから触るなよ」って言われた。
触るなって言うくらいなら置いてくなよって感じだけど。
《この呪符は厄介なものだ。厄介かつ強力》
まあ、五条先生がやったんだから強力でしょうね。
しかもめちゃくちゃ厄介そう。
呪符にも施した人の性格が宿るのかな。
《俺が表に出たら封印を施すようにできている。まあ、解けんことはないが、解いたところであの男が来るならさらに厄介なことこの上ない》
呪いに厄介って言われてるよ、五条先生。
《だからこうやって小僧の身体の一部を乗っ取ることしかできん。なんとも不便だ》
そう言った口が不服そうに尖っている。
口だけなのに表情まで分かるような気がした。