第7章 両面宿儺
「じゃあそのまま撮りますよ? お礼に、写真撮ったらお兄さんの目隠し外してくださいよ! 実はイケメンだったりしてー!」
カシャリ、と写真を撮られる。
能面みたいな私の顔を「かわいい♡」なんて白々しく言って、五条先生は返ってきたスマホをポケットにしまう。
「ありがと、おねーさん。それじゃあ、お礼に」
黒布を下ろして五条先生が女の人にウインクする。
女の人の反応は見なくても分かったけど、意外に叫び声があがらないなって思ったらもはや放心状態だった。
「アハハッ、顔が良すぎるのも問題だね。次行こうか、皆実」
笑いながら、五条先生は私の手を引く。
そんな簡単に目隠し取っていいなら、目隠しする必要ないんじゃないかな……って、思ったけど。
「ん、何? また悪口考えた?」
黒布でまた目を覆おうとした五条先生と視線が絡む。
その性格に似合わない綺麗な眼は誰でも虜にするんだろう。
やっぱり五条先生は素顔を晒さないほうがいい。
「いいえ。早く目隠してください」
(……心臓に悪いから)
「えー……」
五条先生は手を止めて、私に顔を寄せる。
私の手を握ってた五条先生の手が私の頰に触れたから。
(ま、待って)
キスされるかと思って、思わず身を引こうとしたのに。
五条先生が吹き出した。
「アハハッ、皆実のえっちー。こんなとこでしないよ」
「……叩きますよ」
頰が熱い。
もうほんと、五条先生嫌い。
「僕は好きだよ、皆実のこと」
五条先生は黒布で目元を覆いながら、半笑いで答える。
勝手に人の心読んで。
完全にバカにしてるから余計にムカついた。
「はいはい、怒らない怒らない。ずんだソフト買ってあげるから」
「いりません」
その後しばらく仙台市民のあいだで、『伊達政宗像の前で幻の美男美女がいちゃついていた』という噂が流れていたことを、私は当然知らない。