第7章 両面宿儺
「処分されたってことですか?」
「ううん。行方不明」
「……やばくないですか?」
「うん、やばいね。……皆実、焦げるよ」
話に夢中になって、フライパンを放置してた。
危ない、危ない。
でも具材が焦げるより、そっちの話の方が重要……。
「今の僕にとってはこれからやってくる夕飯が食べれるものかそうでないかの方が重要」
……また、考えてることバレた。
なんでバレるかな。
サングラスで隠したその眼は思考も読めたりするのかな。
「探すの手伝ったほうがよくないですか?」
「アハハッ、恵なら1人で見つけるでしょ。……それより」
五条先生が、私のそばに立つ。
私の顎を掴んで、そのままグイッと顔だけ横を向かせた。
「……んっ」
五条先生の柔らかな唇が触れる。
ヌルッと舌が割って入ってくるから、身体が揺れた。
「……夕飯作りのほうが重要って言ってませんでした?」
少しだけ唇を離して、私は文句を告げる。
すると、五条先生が小さく息を吐くように笑った。
「うん。でも……今日はまだしてなかったなって」
五条先生が火を止める。
ああ、また夕飯も酷評されるなって。
そんなこと簡単に予想できるのに、私は五条先生の行動に逆らわない。
「……先生」
ゆっくりと目を閉じて、口を開けば身体が軽くなる。
あの日以来。
私と五条先生は毎日キスをしている。
それは特に約束したわけじゃないけど、私と五条先生のあいだで暗黙のルールみたいになっていた。
「……っ、もう少し舐めるけど……いい?」
耳元で囁かれて、私は小さく頷いた。
五条先生が台所に手をついて、私に体重をかける。
そうすると、私は反動で倒れそうになってしまうのだけど。
崩れ落ちそうな私を、五条先生は抱き留めて支えてくれる。
私と五条先生の距離が0になればなるほど。
どんどん甘く、深くなる。
そんな五条先生のキスを、私は少しだけ覚えてしまった。