第7章 両面宿儺
トントン、と。
包丁とまな板がぶつかる音を背後に、五条先生が電話してる。
「保管場所? えっとねー……あー、そうそう! 百葉箱だよ」
『百葉箱!?』
電話の相手は伏黒くん。
驚いた声が電話越しにこっちまで聞こえてきた。
伏黒くんは今、特級呪物の回収で宮城県に出張中。
それにしても、まさか特級呪物が百葉箱にあるとか言ってんのかな、この人。
百葉箱って、あの百葉箱だよね?
たぶん、伏黒くんも同じような反応したんだろう。
五条先生が愉快そうに笑った。
「アハハ。でもおかげで回収も楽でしょ」
まあ、楽だけど。
でもそんな誰でも触れそうなところに置いといて大丈夫なの?
特級呪物だよね?
「え?」
私がうーんと考えていると、五条先生が頓狂な声を上げた。
でも次の瞬間、また爆笑し始める。
「マジで? うけるね。アハハッ! それ回収するまで帰ってきちゃ駄目だから」
五条先生はお腹を抱えて笑ってる。
そして私の方を見て、ちょいちょいと手招きする。
「しばらく恵帰ってこなさそうだから労ってあげて」
耳に当てられたスマホからは伏黒くんの不機嫌な声が届いた。
『綾瀬、先にその人ぶん殴っといて』
「あとで伏黒くんも殴るんだ」
いったいどんなやり取りがあったんだろう。
五条先生の発言しか分からないけど、100%五条先生が悪い。
「大変そうだね。怪我とか、しないでね」
『まあ。…… 綾瀬も、禪院先輩との特訓頑張れよ』
「ありがとう。帰ってきたら、また練習の相談のってね」
そう言って通話を終える。
同時に、五条先生が私の手からスマホを奪い取った。
「何そのカップルみたいな電話」
「カップルの電話ってこんな感じなんですか」
知らないから聞いてみたら、五条先生が舌をベッと出してよそ見した。
(しらばっくれる気だな。別にいいけど)
私は踵を返して、台所に戻る。
フライパンに火をつけて、油を敷いて。
そうして今切った具材を全部フライパンに放り込んだ。
「伏黒くん、帰ってこれないって何かあったんですか?」
「んー……特級呪物がなくなっちゃってるらしいんだよね」
……なくなった?