第6章 呪いの享受③
「恵、ああ見えて優しいでしょ」
五条先生はいつものように笑ってくれる。
伏黒くんは、優しい。でも……。
「みんな……。みんな、優しすぎますよ」
五条先生の優しさの結果が、これじゃん。
痛みの消えた身体が、五条先生に迷惑をかけた何よりの証拠。
「ごめ……」
「謝るの、禁止ね」
五条先生が私の唇に人差し指を押し付けて、言葉を遮った。
「皆実はさ、勘違いしてるよ」
五条先生がそのまま指を滑らせて私の頭に乗せる。
「呪術師が守るのは非呪術師だけじゃない。そこには呪術師も含まれる。……だから守られることは決して悪いことじゃない」
伏黒くんにもそう言われた。でも……。
「私は守られるだけで、誰かを守ることができないんです」
「それは皆実が思ってるだけだよ。……さっきの子どももそう。皆実の存在に救われたヤツはちゃんといる」
その言葉を、私は知ってる。
『君の存在に救われた人間は、たしかに存在するさ』
「実際に、僕は皆実といると楽しいし。皆実は僕に幸せをくれてる。それは守ることよりもすごいことでしょ」
『私自身、皆実の存在に救われてるよ。君といるのは楽しくて、君といる時は少しだけ……心の底から笑えている気がする』
ああ、まただ。
また、私はこの言葉に救われてる。
「…… 皆実?」
不自然に笑っちゃった私を、五条先生が不思議そうに見つめた。
「昔、同じこと言ってくれた人がいました」
今の五条先生みたいに、私を守ってくれた人。
出会った時から、そう。
五条先生はどこか、あの人に似てた。
見た目も話し方も、何もかも違うけど。
「前に、ファーストキスのこと聞きましたよね」
「……好きな人としたって」
私は小さく頷いた。
とっても大好きな憧れの人。
「私のことを助けてくれた人です」
五条先生には少しだけ、話しておこう。