第4章 呪いの享受
※皆実視点
「綾瀬、しっかりしろ!」
伏黒くんが、心配そうに私の顔を覗き込んでる。
勢いに任せて私に触らないのは正解。
触ったら、伏黒くんの式神が消えちゃう。
「呪霊は祓った。もう、大丈夫だから。あの子どもも、今頃五条先生に保護されてる」
カエルみたいな式神を使って、伏黒くんが私とあの子のことを引き離して、そのまま校舎の外に出て行くよう命令してた。
もう、ここに呪いは存在しない。
(……違うね)
最悪な呪いが、まだここにいるから。
「伏黒くんも、外に出て?」
「オマエを置いていくわけないだろ」
置いていってよ。
お願いだから。
《喰べたい、喰べたい》
身体中が騒いでる。
呪いと呪いがお互いに呪いあって、私の細胞を殺していく。
呪いに満ちた身体が、どんどん音を立てて軋む。
グサリ、グサリと。
身体に呪いが突き刺さって止まない。
血なんか、出てないのに。
《呪い殺せ……殺せ、殺せ》
うるさい。
《喰べたい》
やめてよ、黙って。
《呪え》
誰か……助けて。
《喰べたい呪え殺せタベタイノロエコロセタベタイノロエコロセタベタイノロエコロセタベタイノロエコロセタベタイノロエコロセタベタイノロエコロセタベタイノロエコロセタベタイノロエコロセタベタイノロエコロセタベタイノロエコロセタベタイノロエコロセタベタイノロエコロセタベタイノロエコロセタベタイノロエコロセ》
「綾瀬!」
(ああ、そっか)
伏黒くんの身体に触れる。
伏黒くんの呪力が私の中に流れて、私の中の呪いを刺す。
痛い、痛い。
でも伏黒くんの呪いは伏黒くんらしく、小さな声。
「オマエ、何を……っ」
伏黒くんの頰が熱い。
きっと君の身体の中はとっても静か。
そんなの、ずるいよ。
(静かなら。ちょっとくらい……受け止めて)
楽になるのは簡単な話。
呪われた私にお似合いの、誰かを呪う方法。
この痛みも、この喧騒も全部。
誰かに投げてしまえばいいんだ。
伏黒くんの瞳が揺れてる。
翠がかった黒い瞳に、汚れた私が映ってる。
「ごめんね、伏黒くん」
呪って、ごめん。