第4章 呪いの享受
※五条視点
「お、呪霊が消えたね」
帳の向こう側で呪霊の気配が消えた。
(祓ったのは恵かな。皆実に祓う術はないもんね)
ポケットに手を突っ込んでのんびり呟く。
僕の言葉を聞いて、伊地知は「本当ですか!?」と安堵の声を出した。
「では帳を解除します」
「うん」
黒の帳が消えていく。
でも少しだけ校内に違和感を覚えた。
(呪霊が消えたのに、この空気はなんだろうか)
やけに濃い呪力の残穢を感じる。
すごく、嫌な感じ。
(…… 皆実、大丈夫か?)
ただでさえ、帳が下りる寸前の顔色は酷かった。
おまけにこの呪力の濃さ。
……何が起きている?
「伊地知、ここにいて。僕ちょっと中の様子見てくる」
足を一歩踏み出して、向かいから蝦蟇が駆けてくる。
(恵の、式神?)
式神だけが戻ってきた。その中には少年が5人。
「五条先生! 子どもたちも無事です! 報告通り5人!」
「ああ、子どもたちはね」
校舎から他に人が出てくる気配はない。
(恵と……皆実は?)
嫌な予感がする。
そんな僕の耳に、蝦蟇に咥えられた少年の叫び声が届いた。
「近寄るな! 死ね、死ね!」
蝦蟇の中を見れば、1人の少年が残りの4人の少年を殴っている。
「こんなヤツら死ねばいいんだ!」
「こ、こらっ、君!」
伊地知が慌てて、蝦蟇の中からその少年を引き上げる。同時に、蝦蟇が消失して、他の4人も地面に投げ出された。
(恵が術式を解いた……? いや、違う。これは……)
「はなせ、はなせぇぇえ!」
伊地知に囚われた少年は苛立ちまじりに叫び声をあげる。
さっきから、この少年だけは様子が違う。
「君、落ち着いてください! もう大丈夫ですから!」
「大丈夫なんかじゃない! あぁぁっ、全部あのお姉ちゃんが悪いんだ!」
その言葉に、意識が奪われた。
「怪物のくせに僕の言うこと聞かないから! オマエらのこと殺さないから!」
「伊地知。……その子は硝子のところに連れていけ。他の子供たちも呪いにあてられてる可能性がある」
「ご、五条さんは!?」
伊地知の質問に答えてる暇はない。
急がないと、皆実と恵、どっちも危ない。