第4章 呪いの享受
俺は蝦蟇を連れて、綾瀬と別れた階段に戻る。
そこに綾瀬はいない。
どこかへ移動した……?
俺が辺りを見渡すと、玉犬が階段を降りて廊下の方を見ていた。
(そこか。……せめて下りるんじゃなくて上れよ)
綾瀬の行動の意味が分からなくて、ため息を吐く。
階段を下りて、廊下に立って。
(なんだ、この空気……)
寒気がする空気に、身体が固まった。
玉犬も俺のそばで震えている。
「あの怪物と同じようにアイツら喰ってきてよ」
綾瀬が少年の前で、跪いている。
片腕を少年に掴まれたまま。
(あの子ども……は人間、だよな)
でも漂う負の空気は、さっきの呪霊より濃い。
「お姉ちゃん、人間みたいな格好してるけど。そのきれいな顔もどうせ作り物だよね」
少年が綾瀬に向かって言葉を吐く。
綾瀬の身体がビクビクと震えてる。
『声になった呪いはそのまま私の身体を刺すんだよね』
先刻の綾瀬の言葉が頭をよぎる。
もしあの少年がこの空気の発信源なら、その身体から大量の呪いが捻出されている。
綾瀬が今、それを全部吸収しているなら。
その距離と、この呪いの質からして……。
「綾瀬!」
綾瀬をその少年から引き離そうと駆け寄る。
「あの怪物と一緒。だってお姉ちゃん、アレと同じ匂いがするもん」
でもあと一歩、遅かった。