第4章 呪いの享受
呪霊の残穢を探しながら、私と伏黒くんは校舎を歩く。
私と伏黒くんの靴音が校舎に響いた。
きっとこの校舎は人がいないから静かなんだ。
《学校休みたい》
《あの子なんで学校くるんだろ》
《アイツ、むかつく》
この校舎に脚を踏み入れてから、一段と私の身体の中がうるさくて仕方ない。
ああ、これが学校だ。
突き刺さる痛みに吐き気すら覚える。
「呪いってね、声があるんだよ」
私の言葉に伏黒くんは首を傾げる。
私の中で脈絡があった会話も、伏黒くんからしたら唐突な話だった。
「距離とかね、負の感情の大きさで声の大きさも左右されるんだけど」
例えば私が呪力を吸収しちゃうギリギリの、すっごく遠くで生まれた呪いの声は小さくて。
一方で負の感情はそんなに大きくなくても間近で生まれるとすごくうるさかったり。
その逆もあって、間近で生まれても取るに足らない負の感情だったら案外静かだったり。
いろんな比例反比例の相乗効果を得て、呪いが声になる。
「声になった呪いはそのまま私の身体を刺すんだよね」
「刺す?」
「うん。たとえば小さな声の呪いは、針でチクッと刺された感じ。でも大きな声はずっと包丁で刺されてるような感じ」
ただ歩いてるだけなのに、突然誰かに刺されたみたいな感覚に陥る。
それを思えば吹っ飛ばされて痛いのなんて、当たり前すぎて。
むしろ人間らしい痛みに安心しちゃうんだよ。
「だからね、今ちょっと身体痛いんだ」
学校は呪いの巣窟。
呪霊が生まれるくらいなんだから、そんなこと最初からわかってた。
分かってて来たんだ。
「大丈夫。言ったじゃん、私痛みには強いって」
「……さっさと祓って帰る」
その発言が伏黒くんなりの気遣いだって、分かった。