第30章 反魂人形
「つーか、否定してたけど、やっぱり2人は付き合ってたんだなー」
「……違うよ」
私が否定すると、虎杖くんが「イヤイヤイヤ」って呆れたように否定を返した。
「いつも一緒に寝てるし、前に俺の前でチューしてるし、付き合ってないわけなくね?? バカな俺でもさすがに気づくよ??」
「ねー。僕もそう思うけど、実際付き合ってないんだよねー、僕たち」
冗談を言っていたかと思えば、突然真面目な答えを告げる。
五条先生の答えに、また虎杖くんが驚いたような声を上げた。
「え……マジ?」
「うん、マジ。皆実は悠仁と比べ物にならないくらい底無しのバカだからさー、僕が生殺しされてんの。かわいそうな僕の気持ちを分かってよ、悠仁」
泣き真似をする五条先生に、虎杖くんが本気で哀れむような視線を向けている。
「いやーたしかに、それは可哀想かも」
「でしょ? だから僕が皆実の心をゲッッッツするために人肌脱いでよ、悠仁」
心にもないことを口にして、五条先生がテーブルに乗り出し虎杖くんの肩を掴む。
懇願するような五条先生の素振りを前にしても、虎杖くんの態度は変わらない。
最後のトーストを丸ごと全部口の中に放り込んで、数回咀嚼した後、そのままゴクリと飲み込んだ。
「うーん、でも皆実がフリーなら俺はラッキーなんだけど」
「ん? 何て? 悠仁」
「絶対聞こえてたよね、先生」
虎杖くんの呟きは私にも聞こえていた。
だから虎杖くんの肩を掴んでる五条先生に聞こえないはずなくて。
わざと聞こえないふりをした五条先生に、虎杖くんは肩を竦めた。
「まあいーや。で、ちなみに俺は何すればいいの?」
「うん? お留守番」
そう口にして、五条先生はニッと笑みを浮かべる。
「僕と皆実がラブラブ北海道旅行してる間、修行を兼ねたお留守番、頑張ってね、悠仁♡」
盛大な煽り文句とともに虎杖くんを家に残して、五条先生と私は北海道へと旅立った。