第30章 反魂人形
「てなわけで、僕と皆実は明日から2泊3日の北海道旅行に行ってくるから」
朝ご飯を食べている最中に、五条先生が虎杖くんに告げた。
ちなみに朝ご飯を作ったのは虎杖くん。
五条先生の寝室から出て行ったら、キッチンで料理している虎杖くんと鉢合わせて。
昨晩の記憶が頭によぎった私とは裏腹に、虎杖くんは何事もなかったかのように「おはよ、皆実はトーストにバター塗って焼く派?」なんて問いかけてくれた。
虎杖くんは宿儺が顕現している間、本当に眠っていたみたいで。
あの時の記憶は一切ない様子だった。
もしかしたら、私のために記憶のないフリをしてくれてるのかもしれないけど。
いずれにしても、今この状況で気まずさを感じたのは、私だけ。
いつも通りの虎杖くんは、五条先生のお知らせに彼らしい反応を返す。
「え!? いいなー! ……ってか、つまり『デート』だよね? それ」
「――ゴホッ」
虎杖くんのストレートな疑問が刺さって、飲んでいたカフェオレが気管に入った。
「うわっ! 皆実、大丈夫か?」
咳き込んだ私に驚いて、虎杖くんが立ち上がる。
でも私の隣に座ってる五条先生が、虎杖くんのことを制して、私の背中を摩ってくれた。
「すみません……。えっと、虎杖くん。違うから。そういうのじゃない」
五条先生が私に告げた北海道旅行の内容は、そんな呑気なものじゃない。
五条先生の『後輩』さんが北海道で任務の予定になっていて、五条先生はもともとその任務に同行する予定を組んでいた。
けど、この状況で私を虎杖くんと2人きりにしておけなくて。
だから私を北海道に連れていくことにした……って、たったそれだけの話。
でもどういうわけか、私にそう説明した五条先生が、白々しく驚いたような声を出した。
「え!? デートじゃないの!? 泊まる旅館、カップルプランで予約してるよ!?」
「やっぱそうでしょ!?」
五条先生の冗談を虎杖くんは本気で受け止める。
こんがり焼けたトーストをかじりながら、虎杖くんは納得したようにため息を吐いた。