第3章 はじめての平穏
心身ともに忙しかった入学初日。
あっという間に過ぎた1日の最後に待つのは、五条先生の夕食採点タイム。
「このたまごスープ、殻が入ってるんだけどそういう料理? ハイセンスだね」
「すみません。でもまあ殻割ってるんですから破片が入ることくらいありますよ」
「溶くときに気付くよね?」
「気づかなかったから入ってるんですよ。すみませんってば」
当然のごとく今日も酷評された。
正直、私は別に料理得意なわけじゃないし。
なんなら五条先生の料理美味しいし。
どっちが作ったほうがいいかなんて明白なのに、絶対私がキッチンに立たされる。
「できる僕がやっても皆実が成長しないじゃん。何事も練習だよ」
というのが五条先生の言い分だ。
反論してみても結局論破されるから無駄なことはやめた。
「それより、入学初日はどうだった?」
食後のカフェオレを飲みながら、五条先生が尋ねてくる。
どうだったか、って聞かれると。
「疲れました」
「アハハッ、真希に散々吹っ飛ばされたもんね」
五条先生は思い出して笑ってる。
我ながらいい吹っ飛ばされっぷりだったと思う。
「でも、楽しかったです」
久しぶりに呪いの声を気にせず過ごした気がする。
高専の外の、微量な誰かの呪いは流れてたけど、距離が遠過ぎて呪いの声は小さかった。
ただ一人、間近で微量な呪いを放ってた人がいたけど。
「真希先輩も、呪力がコントロールできないんですね」
真希先輩の呪力だけは触れてもないのに私に流れてきていた。
「皆実とは少し違うよ。真希の身体に呪力は流れない。非呪術師と同じで生まれた呪力は漏出してる。……真希の近くはきつかった?」
「いえ。……真希先輩の呪いは、真希先輩らしかったので」
真希先輩の負の感情は、真希先輩自身がすでに口に出していたものと同じだったから。
全然陰湿じゃなくて、私を苦しめなかった。
「明日また学校に行くのが楽しみだって、そんなこと初めて思いました」
そんな私の言葉を、五条先生は笑わなかった。