第3章 はじめての平穏
「うん。……たぶんね、私自身ずっとそういう考えだった」
無意識だったけど。
私は呪力があってもそれを使えないから戦わなくていいって。
戦えないから守ってもらって。
ずっと、ずっと。そうやって、全部呪いのせいにしてた。
「でもそれは、やっぱり不平等じゃん」
そう口にすると、伏黒くんがやっと私のことを見てくれた。
戦えないくせに、偉そうなこと言ったかな。
「戦えないのは戦う気がないからだよ。戦う気があるなら、戦う術は絶対にあるはずだから」
その術を、五条先生は私に与えようとしてくれてるから。
「不平等に守られるのはやめようって、決めたんだ。だから……足手まといかもしれないけど、頑張りたい」
真っ直ぐに伏黒くんのことを見つめて答える。
しばらく視線が交差して。
先に視線を逸らしたのは伏黒くんのほう。
「……重心」
「え?」
「綾瀬は構えた時に重心が前後左右のどちらかに偏ってる。重心偏らせると力かかってるように思うけど、実際は重心かかってない半身は宙に浮いてるのと一緒。思わぬ方向から衝撃が来た時に浮いてる半身がもろに飛ばされる。だから禪院先輩にあんなに飛ばされてた」
伏黒くんはそう言って自分のお腹を指さした。
「常に重心を中心に置く練習、してみたら? だいぶ変わると思う」
伏黒くんは言い終わると立ち上がって、私に背を向ける。
たぶん伏黒くんは1%も私に期待してないと思うけど。
それでも1%は認めてくれた気がして。
「練習してみる! ありがとう!」
私の言葉に、伏黒くんはもう返事をしなかったけど。
でもその反応も、全然嫌じゃなかった。