第3章 はじめての平穏
小さな声で「そっか」なんて、珍しくそっけない返事で。
「あ、そうだ。皆実、デザートあるから食べようか」
五条先生は話を切り上げるみたいにして、冷蔵庫のほうへ向かう。
さっき夕飯を作った時に冷蔵庫にはデザートなんてなかった気がするけど。
私が首を傾げてると、五条先生が小さな白い箱を持って戻ってきた。
そういえば、そんな箱が冷蔵庫の中に不自然に置いてあった気がする。
「はい、どうぞ」
私の目の前に小さな箱が置かれ、五条先生がその蓋を開ける。
「遅くなったけど、入学おめでとう」
苺のショートケーキ。
ケーキを載せたゴールドのトレーにはチョコペンで『入学おめでとう、皆実』と書いてあった。
お祝いのケーキなんて、何年ぶりだろう。
最後にこんなふうに祝ってもらえたのは、いつだっただろう。
「皆実、美味しい?」
ほんとずるいなあ、この人。
こんなの美味しいに決まってるじゃん。
声に出したら泣いちゃいそうな気がして、うんうんって頷くことしかできなくて。
「これからたくさん、いろんなことをお祝いしよう」
約束も、未来の話も大嫌いだったのに。
期待しちゃう私はやっぱり五条先生に毒されてる。