第3章 はじめての平穏
真希先輩との特訓初日はほぼ吹っ飛ばされて終わった。
こりずに吹っ飛ばしてくれた真希先輩にむしろ感謝するレベルで吹っ飛ばされた。
いや、強すぎじゃない?
私強くなる前に死ぬんじゃないかな。死因はたぶん転落死だと思う。
(でも、高専で学ぶってことは、あれくらい強くならなきゃ話にならないってことだよね)
どんなに言い訳をしても、頭では理解してる。
ため息を吐いて、ボロボロの棒を見つめた。
真希先輩が持ってたのも私と同じボロボロの棒だったけど、真希先輩が使うとちゃんと武器になってた。
ありえない位置からありえてはいけない動きを可能にしてる。
それはきっと私にはできない。
「どうしたらいいんだろ」
真剣に考える私の横にドサッと黒い影が座った。
「……伏黒くん?」
「悪い。邪魔したか?」
「いや、別に」
私が答えると伏黒くんは「そうか」と答えて、まっすぐ前を見つめる。
何かを考えるように、神妙な顔で。
(私なんかが隣にいて大丈夫なのかな)
考え事の邪魔になっていないか気になって、立ちあがろうとしたら伏黒くんから声をかけられた。
「嫌味とかじゃないけど。オマエの呪力は簡単に制御できるものじゃない。禪院先輩の体術も真似してどうこうできるものじゃない。高専で学んだって、綾瀬の現状は何も変わらない可能性が高い」
これは、真面目な話。
きっと私のために伏黒くんは何かを伝えようとしてくれてる。
私はまた、伏黒くんの隣に座り直した。
「別に高専に来なくても、五条先生は綾瀬のこと守ると思う」
声に嫌悪の色は感じなかった。
伏黒くんの言う通り、彼の言葉は嫌味とか意地悪とかじゃなくて、すべて正論から来る忠告。
「戦えないヤツが、無理に戦う必要はないだろ。戦えるヤツが戦えばいいし、守られることは別に悪いことじゃない。……だから」
きっと、伏黒くんは優しい人なんだなって。
「綾瀬は戦わなくていいと思う」
その一言で分かった。
この人は、そうやって何の打算もなく誰かを助けることができる人なんだって。