第3章 はじめての平穏
「まず体がかてぇな。こう、背中そらせねぇの?」
「ひぃぃいい!」
禪院先輩に両腕を取られ、そらされる。
いやいやいや、待って! そんな背中そらすことないって、逆反りだよ!?
え!? 関節……関節ぅぅううう!
「悟、初めから真希はキツいんじゃないか? 俺が指導してもいいぞ」
パンダ先輩が親切なこと言ってくれてる。
パンダ先輩も意味不明すぎて怖いけど。
でも、でも!
この際、なんでもいいから助けてほしい。
けど、そんなうまい話はなくて。
五条先生はアハハッと先生らしく笑った。
「皆実に触ったらパンダがパンダのぬいぐるみになるから。応援だけしてあげてよ」
「えー、皆実かわいいのに俺触れないのかぁ。ちょっと残念」
パンダ先輩があからさまにがっかりした感じ出してる。感情豊かなパンダってなに!?
「しゃけ、しゃけ」
「棘は皆実の練習相手に不向き。てゆーか、皆実相手なら普通に喋っていいと思うよ?」
なんで言葉が通じてるんだろ。
分かんないの私だけなのかな?
関節が死にきって、私は考えることを放棄した。
「大丈夫か? 顔死んでっけど」
仰向けに転がった私を禪院先輩が見下ろす。
全然大丈夫じゃないけど。
禪院先輩の凛々しい顔を困り顔に変えてしまったのが自分なのかと思うと、少しだけ嫌だった。
「大丈夫じゃないです、けど」
身体痛いし、新しい制服が砂埃まみれだし。
でも、ここで妥協されるのは、もっと嫌だった。
よれよれの身体を起こして、棍棒を禪院先輩に向ける。
「禪院先輩に吹っ飛ばされなくなったら、少しは強くなれますか!」
だったら頑張る。
そう言った私に禪院先輩は笑顔を向けてくれた。
「真希でいい。……強くなりそうな気はまったくしねぇけど、私が鍛えてやるよ。皆実」