第24章 邁進
「なあ……皆実」
白いクマが私の膝の上で眠ってる。
私はクマを見つめながら、五条先生の呼びかけに耳を澄ませた。
「そろそろ、聞いてもいい?」
「何を……ですか?」
問い返さなくても、五条先生の聞きたいことなんて分かってた。
だって五条先生は、わざわざ聞かなくても大体全部お見通しだから。
わざわざ聞いてくるのは、私に言いたい文句がある時だけ。
「『何』、か。……そうだね、いろいろあるよ。……例えば、あんなに術式使うなって言ったのになんで使ったのか、とか。死んで未練はなかったのか、とか」
当たり障りない疑問を選んで、五条先生が口にする。
「死ぬときに僕のことは考えなかったのか、とか。……死んで生き返るまでの間に何してたのか、とか」
そうして、五条先生が一呼吸置く。
静かな空気に、冷たい声が響いた。
「宿儺とどういう縛りを結んで、生き返ったのか……とかね」
五条先生が私に聞きたいことなんて、最後の質問だけ。
それが分かるのに、私はその問いに応えることができない。
「……何。言えないような縛り?」
五条先生が軽蔑するように、私に言葉を吐く。
五条先生の言う通り、私が宿儺と結んだのは『言えない』縛り。
でもたとえ、二つ目の『他言しない』という縛りがなくても、この契約を五条先生には言えない。
「何も……縛ってないです」
契約通りに、嘘を紡いだ。
「そうか」
全然納得していない声で言って、五条先生が私の顎を持ち上げた。
「……じゃあ聞き方を変える」
もう片方の手が目隠しを下ろして。
否応なしに、私と五条先生の視線がぶつかった。
「なんでオマエ、そんなに宿儺の呪力で溢れかえってんの?」
その綺麗な瞳には、宿儺の呪力を必要以上に吸った私が映ってる。