第24章 邁進
五条先生の家の前には、見慣れた車が止まってる。
さっきも私たちをここへ送ってくれた伊地知さんが、また私たちを迎えに来てくれた。
「……どこに、行くんですか?」
恐る恐る尋ねると、五条先生は後部席の扉を開けて、私に先に入るよう促した。
「学長に呼ばれててね。僕が学長と話してる間、皆実は硝子のところに行ってて」
「家入さんのところ……?」
五条先生が隣に座って、車の扉が閉まる。
私が疑問を頭に掲げていると、五条先生が足を組んで答えた。
「皆実が生き返った後、採血し忘れたって」
五条先生が私にスマホの画面を見せる。
家入さんからのメッセージには確かにその旨が書かれていた。
「大丈夫だろうけど、致死レベルの血を流してるから極度の貧血状態なら治療してあげたいんだってさ。……ま、それは建前で、たぶん普通に皆実の身体を調べたいんだろ」
五条先生はそう言って、腕を組む。
「一度死んだ人間が生き返るなんて、普通はありえないから。貴重なサンプルだろうしね」
静かに呟かれた言葉には、無数の棘が生えていた。
その棘に気づいたのか、それとも全くそういう意図はなかったのかもしれないけれど、伊地知さんが割り込むように五条先生に声をかけた。
「学長との約束までまだ少しありますけど、どこか寄ります?」
「いいよ。たまには先に着いてあげよう」
伊地知さんの気遣いに、五条先生はそっけなく答える。五条先生のまともな返答は、それ以上の会話を許さなかった。
伊地知さんはまた黙って、運転を続ける。
静かな車内に、五条先生の小さなため息が漏れた。