第24章 邁進
高専に戻ってきたら、釘崎がパンダ先輩に追いかけられていた。
ジャージを羽織りながら、その光景をボーッと見つめて。
俺は禪院先輩と狗巻先輩の元に歩み寄る。
すると、俺の存在に気がついた禪院先輩が俺の方を振り返った。
「おっせぇよ、恵。何してた」
「なんでもいいでしょ」
説明したところで、理解してもらえるとは思わないから。
どうせ会話をするなら、もっと意味のあることにしようと思って、こう問いかけた。
「……禪院先輩は呪術師としてどんな人達を助けたいですか?」
俺はやっぱり善人を助けたいと思う。
でもだからって悪人のことを見殺しにしていいわけじゃない。
禪院先輩はそのあたり、どう考えてるのか気になって、尋ねてみたけれど。
聞く相手が悪かった。
「あ? 別に私のおかげで誰が助かろうと知ったこっちゃねーよ」
「聞かなきゃよかった」
「あ゛ぁ?」
全くタメにならない返答が来た。
まあ、そんな返事だろうとは思っていたけれど。
ため息を吐く俺に、禪院先輩は「でも」と付け加えた。
「皆実のことは助けたかった」
咄嗟に顔を上げると、少しだけ悲しそうな目をした禪院先輩が映り込んだ。
こんな顔、初めて見た。
「特級相手……オマエがそばにいてこの結果なんだから、私がそばにいても何も変わんなかったと思うけど、それでも助けたかったよ」
「こんぶ……」
狗巻先輩も、地面に視線を落とす。
さっきまで『お通夜』なんて嘘だろってくらいに騒ぎ散らかしていたのに。
本音を隠していたのは、俺達だけじゃなくて。
なんなら俺達は、全然本音を隠しきれてなかったんだって。
二人の姿を見て実感した。
「でもそんなこと考えたって意味ねぇし。後ろ向いてる暇があるなら、私達はひたすら前に進まなきゃいけない」
禪院先輩が手にしているボロ棒に視線を移す。
その棒は、綾瀬との特訓に使っていたものだ。
「だからオマエは強くならなきゃいけないんだよ。皆実を守れなかった事実を心に刻んで」
強い眼差し。
この眼を前にしたら、言い訳なんて一つもできやしない。
「……はい」