第24章 邁進
住宅街の一部屋。
そこに俺は、単身やってきた。
目の前には、あのとき少年院を訪れた女性――岡﨑正の母親がいる。
「自分達が現場に着いた時には既に息子さんは亡くなっていました」
その事実を、ちゃんと自分の口から伝えたかった。
「正直自分は少年院の人達を助けることに懐疑的でした」
今でもその気持ちは変わらない。
俺にはどうしても、あの少年院の人達を命を賭して助ける理由が見つからなかった。
「でも仲間達は違います」
虎杖は最後まで万人が『正しい死』を迎えられるように、って考えてた。
あんな凄惨な現場を目の前にしても尚、アイツの性根は変わらなかった。
「成し得ませんでしたが、息子さんの生死を確認した後も遺体を持ち帰ろうとしたんです」
なんの迷いもなく、虎杖はそうした。
非道な俺と違って。
あの遺体と、そして今目の前にいるこの女性のことを、虎杖は親身に考えていた。
どうしても、それだけは伝えておきたくて。
それを伝えるためだけに、俺は単身ここにやってきた。
「せめて、これを」
女性の前にその名札を差し出す。
虎杖と綾瀬をあの場に置き去りにして、それでも俺はこの名札を剥ぎ取ることしかできなかった。
(残念ながら遺体は、特級の生得領域と共に消滅してしまいました)
そんなことを『呪い』を知らない人間に言ったところで、混乱させるだけだから、俺は言葉を濁す。
「正さんを助けられず、申し訳ありませんでした」
深く頭を下げる。
虎杖ならきっと、こうするだろうと思った。
「……いいの、謝らないで」
頭を下げたままの俺に、女の人の咽び泣く声が聞こえる。
「あの子が死んで悲しむのは私だけですから」