第24章 邁進
きっと綾瀬は何も考えていなかったんだと思う。俺たちに「頑張れよ」って言いたかっただけなんだって。
綾瀬の言いそうなことくらい、嫌になるほど分かってる。
分かってしまうくらい、綾瀬を見てた。
だから、綾瀬が俺のことを「弱い」と揶揄したかったわけじゃないこともちゃんと分かってる。
分かってるけど、でも……。
俺がもっと強かったら。
特級を倒せるくらいの強さがあったら。
綾瀬も虎杖も死ななかったんだって。
誰に言われなくても、自分で自分を責めていたのに。
綾瀬の言葉を聞いたら、余計にそう思わずにはいられなかった。
嫌になるくらい、その言葉が俺にとっての『呪い』になってしまった。
それ以上、何も言えない俺に、釘崎はまた覇気のない声を溢す。
「……一番弱っちかったヤツが、偉そうに上から言ってんじゃないわよ」
釘崎は精一杯の文句を口にする。
悪態をついて、釘崎は静かに言葉を重ねた。
「……アンタ、仲間が死ぬのは初めて?」
「同級生は初めてだ」
「ふーん。その割に平気そうね」
試すように言って、釘崎が俺のことを横目に見た。
「……オマエもな」
「当然でしょ。会って2週間やそこらよ。そんなヤツらが死んで泣き喚く程チョロい女じゃないのよ」
釘崎が俺から視線を逸らす。
平然とした声。
でもその言葉を紡いだ唇を、釘崎は強く噛みしめていた。
(……平気なわけ、ねぇよな)
本音なんて、この状況で吐けないのは俺も釘崎も同じだった。
平気なフリをしてなきゃやってられないくらい、俺も釘崎も感情がグチャグチャになってる。
「暑いな」
「……そうね、夏服はまだかしら」
蝉の音は、まだ聞こえない。
でも聞こえてもおかしくないくらい、蒸すような暑さが俺たちを蝕んでる。
意味のない会話をして、俺たちは淀んだ空気に沈んだ。
けれど、その空気を切り裂くように砂利を踏み潰す音が盛大に響いた。