第24章 邁進
解剖室を出てからずっとそう。いつもうるさすぎるくらいにうるさい五条が、不気味なくらいに静かで、こういうのなんて言うんだっけ。上の空?
「別に、何も不服じゃないけど」
「ふーん」
その態度がすでに不服そうなんだけど。
あー、あれか。
「虎杖も匿うから、綾瀬との同棲生活も終わりだもんね」
冗談半分で言ったら、五条が黙った。
当てちゃったのか……。
「女子高生に本気になるアラサー男ってどうなの」
「その言葉、硝子のもう1人の同期にも言えることだろ」
ああ、そうだった。
私の同期は2人とも、揃いも揃ってやっぱクズだったんだろうな。
夏油に至っては、一番歳食った時でも綾瀬は中学生でしょ。
まあ、親友の大事にしてた女に手を出す五条はやっぱ最強だと思うけど。
でも結局、この2人の気を引いた綾瀬が1番すごいと思う。
まあ、こればかりは綾瀬の才能だよ。
「放っとけないもんね、綾瀬って。危うい感じが」
「その危うさが、今はたまらなく憎いんだけどね」
五条のまとう空気がピリついた。
ああ、前言撤回。どうやら、この不服そうな態度は『綾瀬の危うさ』が原因らしい。
綾瀬が自分を生贄にして術式使ったことが、それほど許せないのか。
「結果論だけど綾瀬は生き返ったんだしさ。綾瀬のおかげで実際、伏黒も助かってるわけだし。許してやれば? そんなに間違った選択はしてないと思うけど?」
別に五条と綾瀬がどうなろうと知ったことではないけど。
今この瞬間、隣で高専を破壊されても困る。
冗談じゃなくて本気で。五条の不服な態度はそれを容易にやって退けてしまいそうなくらい、不気味だから。
「皆実が、僕に嘘を吐かなければ許すよ」
さっき人前で綾瀬のことをあんなに抱きしめておいて、許さないって選択肢があんの?
私にはやっぱり五条が何考えてんのか分かんないや。
「程々にな。一応病み上がりだから」
「どこぞの誰かに治された身体だけどな」
「え、誰が治したか知ってるなら教えてよ」
不満たっぷりな五条の呟きは、五条の意図に反して、私の好奇心を揺さぶった。