第3章 はじめての平穏
「お見苦しいものをお見せしてすみません」
制服を着て、改めて黒髪の男子に頭を下げる。
すると黒髪くんは私のことは見ずに「こっちこそ、すみません」と落ち着いた声で答えてくれた。
元はクールな人なんだろうな。
うん、クールとはかけ離れた人がそこにいるから特に。
「いつまで笑ってるんですか、五条先生」
腹を抱えて爆笑中の五条先生を、私は半目で睨む。
黒髪くんも私と同じような顔してる。
「だって、面白いじゃん? 初対面が下着姿なんてなかなかないでしょ。アッハハ、おかしい」
うわあ、黒髪くんの目がもう人を見る目じゃなくなってきてるよ。
しかも五条先生、それ分かってて笑ってるのが救いようないよなあ。
「はあ、笑いすぎて疲れちゃった。で、僕に何の用だったのー?」
「……先生が先に俺に電話したんですよ」
「え、そうだっけ? あー、そうだそうだ。今日絶対任務いれないでーって言いたかっただけなんだけど。ちょうどいいね、学校で会わせようと思ってたけど手間が省けた」
五条先生は笑うのをやめて、いつものヘラヘラした感じで伏黒くんと私の間に立った。
「彼は伏黒恵。呪術高専の1年、皆実の同級生ね。ちなみに今は1年、彼だけだから。一応入学決まってる子はいるけど」
五条先生が黒髪くん……伏黒くんのことを紹介してくれた。
1年生が片手に収まる人数って……呪術師の人口ってかなり少ないんだなぁ。
「で、彼女は綾瀬皆実。今日から恵の同級生だよ。いろいろ教えてあげてね」
「ああ、アンタがあの事件の……」
伏黒くんは私のことを見てそう口にする。
狭い世界だ。私の犯した事件のことは広まってるんだろう。
おそらく、百害あって一利もない私の特異体質のことも。
「噂通り、えげつない呪力量ですね。……これで呪い祓えないって本当ですか?」
伏黒くんはありえないとでも言いたげに五条先生を見上げる。
五条先生は「マジマジ大マジ」なんて言って笑ってる。
「そんなんで高専入ってどうするんですか」
「そんなんだから入るんだよ」
曖昧な返事に伏黒くんは顔をしかめた。
でもそんなことまったく気にしてないみたいに、五条先生は私の手を引いた。
「じゃあ、行こうか」