第1章 プロローグ
真っ黒な帳が降りる。
11年前と一緒。
顔もわからなくなったぐちゃぐちゃの胴体と、四肢があたりに散らばってる。
私以外みんないなくなって、むせかえる血の匂いに吐きそうになって。
全部一緒。
でも現れたのはあの人とは正反対の真っ白な髪の人。
「うへぇ、これがもともと3級ねぇ。七海でも手こずりそうじゃん」
黒布で目隠ししたまま、呪霊のほうを向いて、その人は笑ってる。
「で、君がその呪霊を太らせた、と」
君、っていうのは私のことを指してるんだろう。
もとは蛙のような見た目の呪霊が、今では4m長の怪物に成っている。
私はというと、その怪物のデコボコした右腕に紐みたいな糸で吊るされて、その長い舌で顔についた血を舐め回されていた。
こんなに大きくなった呪霊は、あの人以外殺せない。
あの人じゃなきゃ。
この人もきっと死んじゃうから。
「逃げて……逃げてください!」
「大丈夫、大丈夫。僕、最強だから」
私の忠告を無視してその人は笑う。
笑ってる最中、怪物は私のことを舐めるのをやめて、その人に舌を伸ばす。
さっき別の呪術師さんの顔を溶かした舌がその人の顔面寸前で止まった。