第20章 呪胎戴天
虎杖くんを庇うように立って、私は真正面から呪霊の呪力を浴びた。
出力された呪力はすべて、私の体内に流れ込む。
淀んだ邪悪な呪いが私の中を廻る。
また、あの感覚。
呪いが私の中を暴れて、騒いでる。
余りの刺激に、全身の神経細胞が悲鳴を上げて。
「お、ぇ……っ」
思わずその場に吐いてしまった。
痛くて、気持ち悪くて、仕方ない。
何も出てこなくなっても、胃液がまだ出てくる。
私の吐瀉物を呪霊が舐めて、また一層呪霊の放つ気配が邪悪に濃くなった。
(……この、役立たず)
自分を責めたところで何もできなければ役立たずなことに変わりない。
浴びた呪力は相当量。
流れる声は明瞭だから。
(吐きたくても、堪えろ!)
「流呪操術」
身体の中の呪霊の声を掴んで。
「酩酊!」
その動きを止めてしまえば、時間は作れる。
伏黒くんが野薔薇ちゃんと一緒に、ここを脱出するまで。
這いつくばって、嘔気を我慢して。
そんな私の背後で、虎杖くんが呟いた。
「皆実、ごめん」
こんなときに、やめてよ。
呪霊の声を手放したら、今度こそ私は呪霊の向ける呪力に耐えられないかもしれないから。
これはラストチャンスなの。
「……オマエのこと守れなくて、ごめん」
なんで。
なんで、虎杖くんが謝るの。
私だって、虎杖くんを守れてないのに。
「自惚れてた。俺は強いと思ってた。……死に際を選べるくらいには強いと思ってたんだ」
やめてよ。
「でも違った。……俺は弱い」
虎杖くんの悲痛の感情は、彼の中を廻るだけ。
だから絶対に、私の身体には流れてこないのに。
悲しい言葉が、私の心を乱してる。
「あ゛ーーー!! 死にたくねぇ!! 嫌だ!! 嫌だぁ!!」
虎杖くんが泣いてる。
「でも……死ぬんだ……」
「虎杖くん!」
ダメだって分かってるのに、私は虎杖くんの言葉に意識を向けてしまった。
「君は……強い人だよ」
振り向いた私の顔を、虎杖くんが苦しげに見つめてる。
私の身体の中を、掴み損ねた呪霊の声がどんどん流れ出す。
「強い人だから、大丈夫」