第20章 呪胎戴天
「……っ」
伏黒くんが唇を噛んで、私の元に駆け寄ってくる。
「綾瀬、立てるか?」
伏黒くんが私の腕に触れようとしたから。
私はその手を振り払った。
「だ、め……」
振り絞って、やっとでてきた声は、酷く小さくてか細い。
こんなんじゃ、余計に伏黒くんを心配させちゃう。
「綾瀬、何言ってんだ。早く逃げ――」
「私……も、残る、よ」
「バカ! 何言ってんだ!」
伏黒くんがそう言って、また私の腕に触れそうになったから。
精一杯の声を振り絞った。
「私に、触れたら……伏黒、くん術式、使えない!」
私の言葉で、伏黒くんがハッとして手を引っ込める。
「野薔薇、ちゃん……探して! 私、はまだ、歩けそうに、ないから……先に、行って!」
伏黒くんのその心配そうな顔を私はあと何回見ればいいんだろう。
せめて私も虎杖くんみたいに。
伏黒くんを納得させられるくらい、堂々と……穏やかな顔ができたら。
「大、丈夫……私に、呪霊の……攻撃は、効かない!」
そう言って、虎杖くんの真似をしてみた。
口角を上げて。
大丈夫だと心に言い聞かせて。
全身の筋肉を緩めた。
「大丈夫」
もう一度告げたら、やっぱり伏黒くんは顔を歪ませた。
でももう、それ以上何も言えないって顔で。
「……っ、……絶対、無理はするな」
伏黒くんはそう言って走り出す。
玉犬の黒を出して、野薔薇ちゃんを探しに向かった。