第20章 呪胎戴天
「あと2人の生死を確認しなきゃならん。その遺体は置いてけ」
「振り返れば来た道がなくなってる。後で戻る余裕はねぇだろ」
虎杖くんの反論に、伏黒くんが目の色を変えた。
「『後にしろ』じゃねえ。『置いてけ』っつったんだ」
伏黒くんらしくない、強い口調。
この惨状とこの濃い気配に、伏黒くんは余裕を失くしてる。
でも今ここで2人が口論することもまた間違い。
今は一瞬でも時間が惜しい。
「ただでさえ助ける気のない人間を死体になってまで救う気は俺にはない」
伏黒くんのその発言に怒って、虎杖くんが伏黒くんの胸ぐらを掴んだから。
「2人とも、今は口論してる場合じゃ……」
――ない。
そう言おうとして、口が動かなくなった。
咄嗟に止めに入ろうと動かした足は微動だにしない。
ド――クン
やけに大きな心臓の音。
「皆実!」
しゃがみこんだ私に、野薔薇ちゃんが駆け寄ってくる。
ダメ、来ちゃダメ。
言いたいのに、何も喋れない。
視線を動かせば、玉犬が破壊されて壁に食い込んでいる。
「オマエは大勢の人間を助け、正しい死に導くことに拘ってるな。だが自分が助けた人間が将来人を殺したらどうする」
「じゃあなんで俺は助けたんだよ!!」
伏黒くんと虎杖くんの口論は止まらない。
ダメ。みんな、気づいて。
「アンタたち、いい加減にしろ!! ケンカしてる場合じゃない!!」
野薔薇ちゃん、2人を連れて、逃げて。
もう、すぐそこにいるの。
「皆実がヤバいんだよ!! 時と場所をわきま――」
野薔薇ちゃんの声が途切れる。
膝が折れて、野薔薇ちゃんが床に現れた影の中にトプンと消えた。
「釘……崎?」
2人とも気づいて。
「綾瀬、虎杖!! 逃げるぞ! 釘崎を捜すのはそれからだ!!」
そう口にして、伏黒くんが固まった。