第2章 流呪操術
「これは【呪骸】。私の呪いが籠っている人形だ」
その人形が私に向かって走ってくる。
その可愛らしい手を振りかざして、私に向かって勢いよく……着地した。
私の胸に収まったのは、ただのぬいぐるみ。
私に触れられてもう動くことをしない。
「……なるほど。悟の言っていた通り、すべての呪力を吸収するのか。ならば」
瞬きをしたら、学長さんが目の前にいた。
勢いよく叩きつけられた身体に痛みが走る。
呪力を感じない。これは、ただの体術。
「呪術師が戦うのは呪霊だけじゃない。その相手は呪詛師……人間だって含まれる」
呪詛師、か。
私もその容疑がかけられてるんだっけ。
この人たちは呪術師と呪詛師を明確に分けてる。
まあ当然なんだけど。
でも私にとっては呪術師も呪詛師もあんまり変わらない。
だって、私を助けてくれたのは……
呪術師で、呪詛師だったから。
「君は曖昧な【平穏】のために呪詛師を、人を殺せるか? 他人のために自分が死ぬことになっても誰も呪わないか?」
学長さんの力が肩にめり込んで、床が沈んだ。
痛い。
けど、この痛みは不快じゃなくて。
学長さんの言葉は不思議なくらいに心に馴染んだ。
だって、その通りだから。
私はそれを知ってるから。
あの人は自分じゃない誰かのために生きて、誰かを殺してたから。
「呪術師に悔いのない死などない」
あの人の死に際を、私は知らない。
悔いはあったと思うよ。
でも、それは呪術師とか呪詛師とか関係ないと思うの。
誰だって、いつ死んでも多少の悔いはあるよ。
「それでも君はこの世界に来るのか」
本音を言えば、来たくないよ。
全部、五条先生のせいだもん。
でも、五条先生が私を笑わせてくれるって言ったから。
「今はまだ、死ねないので」
「……っ」
だから、五条先生。
ごめんけど、約束は破るね。
「……皆実」
――流呪操術・酩酊――