第17章 大波乱⭐︎一年生親睦会
その名前を呼んだら、涙が出ると思ってた。
苦しくなるから、思い出でもその名前は呼ばないようにしてたのに。
その名前は喉元に引っかかることもなく、綺麗な音になった。
大好きな人の名を呼んで、涙も流さない。
薄情な私の問いかけに、五条先生は小さく頷いた。
「……同期だったよ。今の皆実たちと一緒」
綺麗な夜空を見上げて、五条先生は教えてくれた。
「僕と傑と、それから硝子……家入硝子。3人で同期だった」
「家入さんって、あのお医者さんの?」
反転術式っていう『なんでもなおし』でみんなを治してくれるお医者さん。このあいだ伏黒くんも治してくれたって。
前に小学校で呪われた男の子を治したのも家入さんだった。
私は話にしか聞いたことなくて、まだ会ったことはないんだけど。
「皆実も会ったことあるんだよ。気絶してたから知らないだろうけど」
いつの間に、って思ったけど。
五条先生の前では気絶してばかりだったから、いつでもおかしくないなって苦笑した。
「すごいメンバーだったんですね」
「うん。硝子は非戦闘員だったけど、人を治すことに関して右に出る者はいないと思うし。……僕たちも、2人で最強だった」
五条先生の横顔を私は見つめる。
サングラスで隠れた瞳も、横からならしっかり見えた。
憂いを帯びて、長い睫毛に隠すようにその瞳が伏せられるのも。
「アイツと仲が良かったかって聞かれたら、よくケンカしてたって僕は答えるよ」
「……よく高専が吹っ飛ばなかったですね」
「アラートはよく鳴ってた。禁止されてんのにアイツが呪霊ぶっ放すから」
そう告げる五条先生は、本当に楽しそうで。
思い出を反芻して、無邪気に笑った。
「いつも正論ばっかりで、全然意見合わないし、揉めてばっかだったけどさ」
五条先生の声は、少しだけ震えてた。
「今でもずっと……僕の親友だよ。たった1人のね」
『……私にとっては、今でも親友だけど』
昔、あの人も……今の五条先生と同じ顔してた。
やっぱり、そうだったんだ。