第17章 大波乱⭐︎一年生親睦会
野薔薇ちゃんが痛いところをつく。
伏黒くんが「おい」って、野薔薇ちゃんを咎めようとしたから。
私が先に口を開いた。
「うん、そうだよ」
私の声は自分が思ってる以上に明るく出ていった。
この手の話は、どうしても、他人事みたいになっちゃうんだよね。
「小学校も、中学も高校も……私のことを好きな人はいなかったよ。女子も男子も、関係なく」
「……男子にはモテてたんだろ?」
伏黒くんが怪訝そうな顔をする。
たしかに告白はたくさんされた。でも……。
「好きだったのは『綾瀬皆実』っていう存在だよ。私自身のことを好きだったわけじゃないから」
「……どう違うんだ?」
虎杖くんは意味わかんないって顔してる。
普通は好きの意味をそんなに考えたりはしないんだろうけど。
私は、明確に分けてる。
「《綾瀬皆実と付き合えたら、箔がつく》んだって。告白される時はだいたい呪いがそう教えてくれてたんだよ」
別に知りたくはなかったけど。
中にはちゃんと私のことを好きだった人もいたのかもしれない。
でもそれは少数派だから、大多数の大きな声に簡単に呑まれた。
自分たちは[綾瀬皆実のことが好きだから付き合いたい]んじゃなくて、《綾瀬皆実と付き合ってる自分を自慢したいから付き合いたい》んだって。
「中学卒業する前なんて本当ひどくて。《『綾瀬皆実』の何かであればなんでも価値がある》って、そんな呪いの声と一緒に、よく持ち物がなくなって。……そのせいで知らない誰かを呪っちゃったりして」
体操服がなくなったり、教科書がなくなったり。
隣のクラスの男子が、ある日突然半身麻痺になったときに、その人の部屋から私の使った箸が出てきたこともある。
その箸を何に使ってたかは知らないけど。
でもたぶんね、私の呪いを浴びて、壊れちゃったんだと思う。
そうしてまた、何も知らない誰かが私を呪った。《綾瀬と付き合えたら、ちょっとヤらせてやるから協力しろ》って。