第16章 鉄骨娘
野薔薇ちゃんに連れられて、外に出たはずなんだけど。
「皆実は約束って言葉を知らないのかなぁ?」
いつのまにか、私は五条先生に抱えられてる。その隣で、伏黒くんが少年を抱えてた。
公共の場でこの状況はキツいんだけど。
降ろしてほしいと懇願したら、頰をつねられた。
虎杖くんと野薔薇ちゃんが助けた少年を、親御さんの元に帰すため、五条先生と伏黒くんが少年の家へと向かってる。
その間、虎杖くんと野薔薇ちゃんは休んでろって指示だったけど。
私は何も働いてない……っていうか、2人の足を引っ張ったからか、五条先生に抱えられて、少年の見送りに付き合ってる。
「術式使ったことなら、すみません。今回は使えると思ったので」
「それでヘバって動けなくなったら意味ないでしょ」
五条先生がため息を吐く。
ごもっともなので文句は言えなかった。
「でもまあ、今回は子どもを助けてるから……咎めはしないよ」
五条先生が妥協するみたいにして言って、私の頭を撫でた。
なんだかんだ、五条先生は私に甘い。
そんな気がした。
「あ……っ、ぼくの家!」
しばらくして、少年の家の前にたどり着く。
伏黒くんが静かに少年を下ろした。
「もうあんなところに、1人で入るなよ」
伏黒くんが優しい声で、そんな忠告をする。
少年はまだ少し涙目だったけどコクリコクリと頷いた。
伏黒くんと約束をして、少年は自分の家に向かって走っていったけど。
ぴたりと足を止めて、私の方を振り返った。
「お姉ちゃん!」
私のことをそう呼んで駆け寄ってくる。
『お姉ちゃん、アレと同じ匂いがするもん』
《汚い手で僕を触らないでよ。醜い怪物のくせに》
過ったのは、少し前の小学校の事件。
私が伏黒くんを呪いかけた、きっかけとなった少年の声がした。
少年が私に手を伸ばすから、身体が震えて。
思わず五条先生の胸を掴んでしまったけど。
《怖かった……お姉ちゃんが助けてくれなかったらずっと怖いままだった》
少年の手から伝わってきた負の感情はとても愛らしくて。
「助けてくれて、ありがとう……お姉ちゃん!」
少年はそれだけ言い残して、自分の家に走り去っていく。