第16章 鉄骨娘
身体の中のすべての声を遮断する。
この廃墟に巣食う恐怖の声だけに耳を澄ませる。
《怖い……怖い》
その声を捕まえて、その声を私の呪力で押さえつける。
「呪霊の動きが……止まった」
唖然とした釘崎さんの声。
目の前の呪霊は指一つ動かせずにいる。
同時に、壁から爆音。
「アレ? 外した?」
壁を貫いた腕は、寸分呪霊を外してる。
でも今ならいける!
「虎杖くん、そのまま左!! 子供がいるから気をつけて!!」
声を振り絞って向こう側にいる虎杖くんに告げる。動かない呪霊に向かって虎杖くんがそのまま腕を振り切る。
「……っ!」
瞬間、爆音と少年から溢れる負の感情で、私は呪霊の声を見失った。
呪霊が再び動き出す。
少年を盾にして虎杖くんを怯ませようとするけど、虎杖くんはそんな行動に惑わされることなく呪霊の腕を呪具で落とした。
呪霊から解放された少年を抱きかかえて。
「大丈夫か?」
虎杖くんが少年に笑いかける。
でもその拍子に呪霊がまた、壁の中に消えていく。
(だめ!!)
あと一回! 止めるんだ!
《怖い……》
見つけろ、アイツの呪力。
《こわかったよぉぉ!! 助けてぇ!!》
他の感情にのまれるな!
「流、呪……」
《こわかったぁぁあ!!》
少年の恐怖の感情が激しく流れてくる。
(だ、め……!)
頭が痛い。集中力が切れた。
唇を噛んで手をついた私に釘崎さんが駆け寄ろうとする。
「アンタ…ッ!!」
「釘崎さん、ごめん! アイツを祓って!」
私の渾身の大きな声は、釘崎さんに届いて。
釘崎さんが一瞬だけ凛々しく口角を上げた。
同時、呪霊が完全に壁の中に消える。
「あっ、逃げた!!」
虎杖くんの声。
でもそれに被せるように、釘崎さんが学ランの前ボタンを全開にして藁人形を取り出した。
「逃がすか!! 虎杖!! その腕よこせ!!」
虎杖くんから、切り落とした呪霊の腕を受け取って。
釘崎さんはその上に藁人形を置く。
「芻霊呪法……『共鳴り』!!」
藁人形ごと釘を刺したその瞬間。
《オ゛ッア゛ァァアァ》
私の中にあった、毛ダルマ蛙の呪力が全部消えた。