第16章 鉄骨娘
「……クソッ」
釘崎さんが唇を噛んで、私のことを睨んだ。
「……アイツらにチクれよ。釘崎野薔薇はこんな低級相手に人質取られて何もできない雑魚だって」
釘崎さんはトンカチをギュッと握ってる。
力を入れすぎて、トンカチの柄が軋むくらい。
たぶん釘崎さんは、人質のことさえ考えなければこの呪霊を簡単に祓える。
祓えないのは、その少年を助けてあげたいから。
(気の強い、冷たい女の子なんだろうなって……思ってたのに)
釘崎さんは優しい人だ。
伏黒くんや、虎杖くんと同じ。
だったら……。
「そんなことしない」
「何よ。いい子ちゃんです、って言いたいわけ?」
違う、そうじゃない。
「釘崎さん、武器落として」
「何言ってんのよ。……そんなことしたらっ」
私はベルトに固定していた小刀をその場に落とす。
私の行動を見て、釘崎さんが表情を歪ませた。
「何、してんのよ」
私は釘崎さんの質問には答えない。
静かに真っ直ぐ呪霊だけを見つめる。
そんな私を見て、釘崎さんは小さくため息を吐くと、そのトンカチを床に落とした。
「丸腰よ。その子を逃して」
武器を持たない私たちを前にしても、呪霊は人質を解放しない。
両手を挙げた釘崎さんは「終わった」って顔で俯いた。
「最期に、沙織ちゃんに会いたかったな……」
まるで、そんな最期の言葉みたいに。
悲しい言葉を紡ぐ釘崎さんに。
私は声を紡いだ。
「会えると思うよ」
これは気休めなんかじゃない。
もうそこに、助けは来てる。
私の中を流れる、彼の呪力がすぐそこにある。
「釘崎さんにはまだ時間がたくさんあるから!」
使うなら、今しかない。
「アンタ……」
また約束破ったって、怒られるかな。
「流呪操術……酩酊」