第16章 鉄骨娘
しばらく待って、私たちの注文の番になる。
虎杖くんがいちごスペシャルクレープを頼んだから、私は定番のチョコクリームとかにしようかなって思ってたんだけど。
「あずきスペシャルくださーい」
五条先生が私の声にかぶせて注文した。
自分の分かな? でもここ並ぶ時『僕はいいや』って言ってなかったっけ。
「五条先生、結局食べることにしたんですか?」
「ううん。これは皆実の分」
(なんで勝手に決めた???)
私の疑問を読み解いて、五条先生は薄く笑む。
「アイツは、これ頼むよ。……たぶんね」
想像もしていなかった台詞に、私の反応が遅れた。
そんな私と五条先生の会話を聞いて虎杖くんが首を傾ける。
「アイツって?」
「ん? アイスだよ、アイス。あずきとアイスはマッチするって話。僕もこれ食べたいから皆実のもらおうと思って」
「なんだ、俺の聞き間違いか。つーか先生、皆実と間接チューしたいだけだろ」
「え、バレた?♡」
虎杖くんの質問を綺麗にかわして、五条先生は私と虎杖くんのクレープを買ってくれた。
温かい生地に馴染んで、バニラアイスが溶けていく。
バニラの白と小豆の黒のコントラストが綺麗なクレープ。
一口食べて、和の香りと甘い風味に頰が緩んだ。
(……美味しい)
「僕にもちょーだい」
五条先生がそう言って、私の持ってるクレープにかぷりとかぶりついた。
口端についたホイップクリームをぺろりと舐めて。
「ん、美味しいね」
なんとなく、あの人の好きそうな味な気がした。
でもそれは、あくまで気がするだけ。五条先生に言われなかったら、私は別のものを注文してた。
『アイツもきっと、それを望んでる』
五条先生はあの人のことを知ってる。
でも知り合い程度の仲で、どんなものが好きでどんなものを選ぶかなんて分かるわけなくて。
「……五条先生」
「いいでしょ、一口くらい」
そうじゃない。そうじゃなくって……。
(どうして……)
喉まで出かかってた言葉は、声にならなかった。