第16章 鉄骨娘
コンビニを出てしばらく歩く。
もうすぐ目的地に着きそうな頃合いで、五条先生のスマホにメッセージが届いた。
五条先生が片手でスマホを弄り始めたから、両手塞がるのは申し訳なくて、そのタイミングで五条先生の手を離した。
「恵たち、もう着いてるって」
「五条先生がカレー食べる暇ないですね」
「え?」
五条先生が例のごとく首を傾げる。
どうやら私はまた的外れな言葉を発したらしい。
「コンビニでカレー買ったんじゃないんですか?」
「歩きながら食べれないんだから買うわけないじゃん。てゆーか、そうだ。……はい、皆実」
五条先生はレジ袋の中を漁って、クリームパンを私に差し出した。
中にホイップクリームとカスタードクリームがミックスされているらしい。
「僕のオススメ。甘くて美味しいよ」
「……ありがとうございます。朝ごはんのことはごめんなさい」
「いいよ。どうせ出来上がっても砂糖一袋ぶち込んだとんでもカレーだっただろうし」
「……隠し味に砂糖いれるといいってレシピ本にも書いてましたよ」
「隠す程度にいれるから『隠し味』って言うんだよ。甘くなるまでいれたら、それただの砂糖味だから」
五条先生が呆れた様子で言いながら、レジ袋からエネルギーチャージゼリーを取り出した。
なんというか、五条先生にその手のゼリーはすごく似合ってる。
(『食事なんて栄養摂れればいいっしょ』とか言いそうなタイプだもんな)
だから余計に、文句を言いながらも毎食私の手作り料理を食べてる姿が違和感なのだ。
「……ん? 皆実もコッチがいい?」
「いいえ。クリームパン食べます」
バリっと袋を開けて、パンを頬張る。
立ち食いは行儀悪いかな、って少しだけ反省した。
(あ、美味しい)
「でしょ?」
ニヤリ顔の五条先生が私の顔を覗き込む。
心の中で感想を述べただけなんだけど。
私がモグモグしたままでいると、五条先生が笑った。