第16章 鉄骨娘
前のめりに倒れそうになったけど、重力の主が私の身体を支える。
「おまたー、皆実♡」
五条先生の大きな身体が背後から私を抱きしめるようにのしかかった。
「うわ、連れがいたのかよ」
「やべ」
私の手に触れていた下品な手が離れ、私の視界から男の人たちが消えて行く。でも……。
「ねぇ、君たちさァ」
五条先生が私の頭上でその人たちを呼び止めた。
「こんなカワイイ子が1人でボーッと君たちみたいな凡人に声かけられるの待ってるとか……マジで思ってんの?」
「あ? んだよ、目隠し野郎」
男の人たちが立ち止まってこちらを振り返る。
五条先生に挑発されて、明らかに怒ってる。
でも五条先生の態度は変わらない。
「うわ、マジで思ってんだ。うける。愉快なのは顔だけにしろよ〜」
「は? テメェのその目隠しのほうが愉快だろうが!」
「人のこと凡人凡人って、じゃあテメェは凡人じゃねえってか?」
五条先生の挑発に男の人たちが目つきを変える。
今にも襲いかかってきそうな空気。
もう放っておけばいいのに、五条先生はいつもみたいにヘラヘラ笑って、言葉を吐いた。
「当然だろ。一緒にすんなよ」
五条先生は黒布を少し上にずらして、男の人たちを見下す。
「……次皆実に触ったら、ブッ殺すぞ」
私に向けられたわけではないのに、ゾワリと悪寒が走る。
背中から流れてきた五条先生の負の感情がチクリと私を刺した。
でも、その痛みは嫌じゃなくて。
男の人たちが顔を青くして逃げていった。
一瞬の悪寒は消え去って、背中の温もりだけがそこにちゃんとあった。
「……殺すとか物騒ですよ、五条先生」
「僕はそんなはしたない言葉使いませーん」
五条先生はわざとらしく言って、私の頭に手を乗せた。
くしゃくしゃと、私の頭を撫でて。
その手が私の手に伸びた。
「怖くなくなったら、離していいよ」
五条先生の家じゃないから、今度こそ私に触れると無防備になっちゃうのに。
五条先生は私の手をギュッと握ってくれた。
たったそれだけで、身体の中を刺す呪いが全部抜かれていく気がしてくるから不思議なんだよ。