第16章 鉄骨娘
コンビニの前で、私はボーッと前を見つめてる。
時間ギリギリに家を出た私と五条先生は、コンビニに寄り道をしてた。
五条先生は『僕が買ってくるから待ってて』って、中に入って行って。
私は1人、コンビニの前で五条先生を待ってる。
(五条先生、カレー買ってるのかな)
「ねえ、君。今1人?」
《ラッキー、めちゃくちゃ可愛い子みーっけ》
鍋ごと丸焦げになったカレーは到底食べることができず、せめてもの償いにおにぎりでも作ろうかと思ったらそもそも炊飯器のコンセントが入ってなくて、ご飯が炊けてなかった。
無駄にしてしまった食材に申し訳ない。
「めっちゃかわいいね」
《ワンチャン、ヤれねぇかな?》
「今から一緒に遊ばね?」
《細いのにエロい身体してんなー》
鍋の処理をしてたら、家を出る時間になっていて、急いで制服に着替えて家を出た。
おかげで朝ごはんは用意できず。
五条先生が今、朝ごはんをコンビニで買ってる。
(夜ご飯もカレーの予定だったのに。……なくなっちゃった)
「え、無視? それともOKってこと?」
《もう勝手に連れてってヤることヤろうぜ》
街の中はやっぱり声がうるさい。
私の中を流れてる、全く関係ない声なのか、それとも私に向かって発せられてる声なのか、分からなくなる。
分からないから、私はやっぱり前だけを見つめる。
私の視界に入り込んだ、知らない男の人たちの顔をボーッと見つめるだけ。
(カレーは辛いほうがいいよ、五条先生)
しょうもないことを考えて、気を紛らわす。
知らない男の人の手が私の手に触れて。
気持ち悪い負の感情がたくさん流れてくる。
大丈夫。
朝、五条先生が呪力を奪ってくれたから。
この下品な笑い声も、きっと知らない誰かに向けたもの。
目を閉じてしまえば、何も分からない。
大丈夫。
自分に言い聞かせて。
そんな私の背中に、突然重力がかかった。