第13章 自分のために③
※伏黒視点
家入さんの治療を受けたら、痛みも気怠さも嘘みたいに楽になって、俺はそのまま眠っていた。
「朝……か」
体を起こして、ケガしていたところを確認するけれど、もうそこに傷はない。
(反転術式、か。相変わらずすごいな、家入さん)
ケガする度にお世話になっているが、本当に何もなかったかのように体が元通りになっている。
家入さんには一日安静にしてろって言われたけど、暇だ。
おまけに寮の中がやけに静か。
(先輩たちもいないんだったか)
一人で落ち着いて過ごせる、絶好の自主練日和だ。
当然のごとくベッドから出ていこうとして、俺は足を止めた。
『伏黒くん。怪我、大丈夫?』
綾瀬の顔がちらついた。
病院に見舞いに来た綾瀬は心配そうな顔で俺を見てた。
(自分のほうが大丈夫じゃなかったくせに)
病院に巣喰う呪いに刺されて、おまけに五条先生ともケンカして。
自分が全然大丈夫じゃないくせに、俺の心配をした。
事情が事情なんだから、アイツは自分勝手に俺を振り回したってよかったのに。
『ごめんね、伏黒くん』
綾瀬は俺を頼らなかった。
どんなに自分が辛くても五条先生しか頼る気ないって顔で。
絶対に揺るがない心がそこにあった。