第11章 自分のために
「……アンタ、嫌なこと言うなぁ〜」
「気づきを与えるのが教育だ」
「俺は別に……」
答えようとした虎杖くんの左顔面に呪骸の右ストレートがくる。
でも虎杖くんは瞬間的にそれを察知して受け身をとった。
「皆実は悠仁に体術学ぶのもありかもね」
「虎杖くん、手加減しまくりそう」
「たしかに。巨乳好きだしね」
「叩きますよ」
「言う前から叩こうとしてんじゃん」
振り上げた手は五条先生に掴まれた。
私は心の中で舌打ちをして、虎杖くんに視線を戻す。
「死に際の心の在り様を想像するのは難しい。だがこれだけは断言できる。呪術師に悔いのない死などない」
瞬間、虎杖くんの纏う空気が少し変わった。
「今のままだと大好きな祖父を呪うことになるかもしれんぞ。……今一度問う。君は何しに呪術高専に来た」
正面から呪骸のパンチ。
虎杖くんは寸前でそのパンチを避けて、呪骸の身体を捕らえた。
一瞬の出来事。
瞬きする暇もなかった。
「『宿儺を喰う』。それは俺にしかできないんだって」
虎杖くんの静かな声が室内に響く。
「死刑から逃げられたとして、この使命からも逃げたらさ。飯食って風呂入って漫画読んで、ふと気持ちが途切れた時、『あぁ今、宿儺のせいで人が死んでるかもな』って凹んで」
まっすぐな虎杖くんの言葉が私の心に沈み込んだ。
「『俺には関係ねぇ』『俺のせいじゃねぇ』って自分に言い聞かせるのか? そんなのゴメンだね」
ちょっと前まで、呪いも知らないただの一般人だったのに。
そんなこと言えるなんてさ。
「自分が死ぬ時のことは分からんけど。生き様で後悔はしたくない」
強すぎるよね、虎杖くんは。
真っ直ぐな虎杖くんの言葉に、私は苦笑する。
夜蛾学長も少しだけ笑ったように見えた。