第11章 自分のために
「遺言……? つまり他人の指図で君は呪いに立ち向かうと? 不合格だ」
私の時と同じ。
その言葉と同時に、夜蛾学長の作った呪骸が立ち上がった。
「人形じゃなかったのか!?」
「『呪骸』……人形だよ、私の呪いが籠もっているがね」
喋っている間に、呪骸が虎杖くんに殴りかかる。
早すぎて私はすでに見失いかけたんだけど。
虎杖くんはしっかりその呪骸を捉えて、そのパンチをリュックで受け止めた。
「窮地にこそ人間の本音は出るものだ。納得のいく答えが聞けるまで攻撃は続くぞ」
「つーかそもそも他人じゃなくて、家族の遺言だっつーの!!」
虎杖くんはそう叫んで、ものすごい速さで襲いかかってくる呪骸を殴り返した。
「すご……」
「やるね。恵が認めるだけある」
虎杖くんの軽い身のこなしを見て、五条先生も楽しそうだ。
けど虎杖くんのパンチを反動にして、跳ね返ってきた呪骸がその勢いのまま虎杖くんにぶつかった。
ぶっ飛ばされた虎杖くんは壁に飛ばされる。
(受け身も上手い)
今のは気絶してもおかしくない打撃。
でも虎杖くんは頭を摩るだけ。
「家族も他人の内だろう」
呪骸の攻撃がいつ来るか分からない。
そんな状況下でも夜蛾学長の面談は止まらない。
「呪術師は常に死と隣り合わせ。自分の死だけではない。呪いに殺された人を横目に呪いの肉を裂かねばならんこともある」
呪霊によって引き起こされる事件の現場は悲惨。
それはこの身をもってよく知ってる。
転がる死体が人の形を留めていればマシな方。
「不快な仕事だ。ある程度のイカレ具合とモチベーションは不可欠」
自分の面談のときは必死だったから、あんまり考えてなかったけど。
夜蛾学長の言葉は現実に即した正論。
「……それを他人に言われたから? 笑わせるな。まだ死刑を先伸ばすためと言われた方が納得がいく」
「……! ざけんな、俺は」
「君は……自分が呪いに殺された時もそうやって祖父のせいにするのか」
私たちが無意識に考えてる矛盾を指摘してくる。
学長の名は本当に伊達じゃない。