第11章 自分のために
「……俺、生チュー初めて見た」
「今すぐ忘れて」
虎杖くんの顔がまだ少し赤い。
でもきっと私のほうが真っ赤だと思う。
本当、最悪。
「つーか、皆実ごめんな。五条先生とそういう関係なのに、コイツが勝手に……その、キス、して」
「そういう関係じゃないし、虎杖くんのせいじゃないからいいよ。この話やめよう」
早口で言ったけど、虎杖くんは後半の私の発言は無視した。
「え!? 付き合ってないのにチューしたの!? 先生!?」
「ま、僕達にもいろいろあるんだよ」
五条先生はアハハと笑って軽ノリで答える。
頼むから余計なことは言わないでくれ。
「全然わかんねーけど。……でも、皆実はなんで宿儺に狙われてるんだ?」
「いやぁ、ほんとだよね。あの両面宿儺に口説かれるなんて何したんだか」
「何もしてないです」
「あの、って……やっぱコイツ有名なの?」
虎杖くんが素朴な疑問を口にする。
たしかに私も、五条先生の話とか、虎杖くんの待遇でなんとなく両面宿儺がヤバい呪いって思っただけで。
実際どうやばいのか知らない。
私も気になって、五条先生を見上げると。
五条先生は真面目に答えてくれた。
「両面宿儺は腕が4本、顔が2つある仮想の鬼神。だがそいつは実在した人間だよ。千年以上前の話だけどね」
腕が4本もあって顔が2本なんて。
全然想像つかないんだけど。阿修羅蔵的な?
「呪術全盛の時代、術師が総力をあげて彼に挑み敗れた。宿儺の名を冠し死後呪物として時代を渡る死蝋さえ僕らは消し去ることができなかった。紛うことなき呪いの王だ」
呪いの王。
五条先生にそう称させるってことはよっぽど……。
「先生とどっちが強い?」
虎杖くんが尋ねる。
私も不安に思って五条先生を見た。
「うーん、そうだね。力を取り戻した宿儺なら、ちょっとしんどいかな」
五条先生にしては弱気な発言。
それくらい、両面宿儺は強力な呪いってこと。
分かってはいたけど、でも。
「負けちゃう?」
私の不安を虎杖くんが代弁する。
俯いた私の頭には五条先生の手が乗った。
「勝つさ」
私を安心させるような五条先生の温もりが流れてくる。
本当、こういうところがずるいんだよ。