第11章 自分のために
《なんだ、貴様が頭ではないのか》
ん? この声……。
虎杖くんの方をチラリとみたら、虎杖くんの頰に口が浮かんでた。
《力以外の序列はつまらんな。……ん、そこにいるのは皆実か。今日も変わらず良い香りだ。悪くない》
ニヤリと口が笑った瞬間、虎杖くんがバチンと自分の顔を叩いた。
「悪い先生、皆実。たまに出てくるんだ」
昨日も私たちの前に勝手に出てたけど。
虎杖くんは気絶してたから、それを知らない。
「愉快な体になったねぇ。勝手に女子を口説く変態呪霊が棲みついて」
最後の方のセリフはほぼ感情がこもってなかった。
普通に怒るより怖い。
私は前回の反省をいかして、両面宿儺の言葉には反応しないことを心に決めてる。抜かりはない! ……って、うわ!!
「皆実、そこ足場悪いから気をつけてね」
五条先生言うのが遅いよ。
ぬかるんだ地面に足が滑って、虎杖くんのほうに倒れそうになる。
「わわっ!」
「皆実、あぶねっ!」
なんとか踏ん張って虎杖くんに倒れ込まずに済んだんだけど。
私を受け止めようとした虎杖くんの顔が間近にあって。
瞬きしたら、眼前にある虎杖くんの頰に口が現れた。
レロッ
唇に生暖かい感触が触れる。
と同時、五条先生が虎杖くんの頰をバチンと叩いた。
「ごめんね。悠仁に対して悪気はないんだけど」
「大丈夫。俺もコイツ叩こうとしてた」
《クククッ、想像以上に美味だな、皆実》
再び虎杖くんの顔に現れた両面宿儺がゲラゲラと笑った。
全然理解が追いついてないんだけど。
(もしかして、私……宿儺に唇舐められた?)