第11章 自分のために
五条先生が私と虎杖くんに切符を渡す。
高専は郊外だからここから遠い。
切符をもらった虎杖くんは首をかしげた。
「高専、ここの近くじゃねぇの?」
「アハハッ。呪術教えてる学校なんて怪しいでしょ。街中には作んないよ」
虎杖くんは「ふーん」とちょっとだけ不服そうな顔をした。
なんとなく虎杖くんの考えてることが分かって、私は虎杖くんを呼び止める。
「虎杖くん」
五条先生に聞かれると面倒なことになる気がしたから、私は虎杖くんの耳元に顔を寄せた。
「……皆実!?」
「しーっ。……もしかして、観光とかしたかった?」
「……っ、そう、だけど。皆実、近くね?」
虎杖くんが顔を赤くしてる。
声をひそめたかったから近づいただけなんだけど。
背後から身体をぐいっと肩ごと引き寄せられた。
「僕が近づくとやたら警戒するくせに、なんでそんなに悠仁に近づいてんの」
五条先生がわざと私の耳元で囁いた。
こんなふうに、五条先生の距離感は変な感じがしてくるから嫌なんだよ。
たぶん私も今、虎杖くんと同じくらい顔赤い。
「まっ、観光とかは追々ね。ちゃんと考えてるから」
五条先生は私を離さないまま、虎杖くんに向かって笑顔で話しかける。
(……地獄耳)
やっぱり聞こえてたんだ。
コソコソ話なんて、するだけ無駄だった。
ていうか。
「もう離してください!」
「怖っ」
五条先生を押しのけようと、五条先生に向かって腕を振り上げたけど。
ヒョイっとかわされた。
「帰ったらちゃんと真希に稽古付けてもらいなよ? 笑えるほど弱いんだから」
ケラケラ笑って五条先生は先を行った。
「五条先生って、本当皆実のこと好きなんだな」
「どこ見たらそう思うの」
「え、全部」
虎杖くんがキョトン顔で言ってくるから、私までキョトンとしてしまった。