第1章 プロローグ
『あの子の身体を調べてて思い出したの。11年前に似たような事件があったこと。5年間呪霊出現の報告のなかった岐阜の田舎町に突如出現した特級呪霊が町の人間をほぼ全員虐殺した事件』
喉が、渇く。
『ほぼ、全員?』
『たった1人だけ行方不明者がいたんだ。そのとき特級呪霊を祓った呪術師がその事件の直後に私に尋ねたんだよ。呪力を排出する方法について』
特級呪霊を祓える術師なんて特級術師以外にありえない。
11年前、乙骨憂太はまだ子どもだった。
九十九由基がそんなことをするはずもない。
そして、僕にはそんなことをした記憶などない。
だとすれば、その呪術師は……。
すべてが繋がる音がした。
『で、あの子どうするの?』
硝子が尋ねる。でもたぶん僕の答えを彼女は分かっている。
『上は死刑一択だろうね』
『私もそう思う。限りなく0でも呪詛師の可能性がある上に、その存在自体が3級呪霊を容易に特級に変えるほどの呪物になり得る危険人物。上にとって生かしておく理由がない』
『でも僕にはその理由がある。だから僕の監視下に置くよ』
僕の答えを聞いて、硝子はまた、ため息を吐く。
そして、こう問いかけた。
『ねえ、それってさ。……あの子のため? それとも……』